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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)11635号 判決

原告 株式会社東京印書館

右代表者代表取締役 下中直也

右訴訟代理人弁護士 藤井瀧夫

被告 新明商事株式会社

右代表者代表取締役 新井靖明

被告 新井靖明

右両名訴訟代理人弁護士 竹田章治

主文

一  被告らは原告に対し、連帯して金二六九万一〇〇二円及びこれに対する昭和五三年一二月七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨の判決並びに仮執行の宣言

二  被告らの請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は印刷業を目的とする会社であり、被告会社は建材の製造、販売及び輸出入を目的とする会社であり、被告新井は被告会社の代表取締役である。

2  原告と被告会社は、昭和五一年八月三〇日、左記内容の債務弁済等の契約をした。

(一) 被告会社は原告に対する約束手形金債務及び売掛金債務合計四五七万一七九六円の支払義務のあることを認める。

(二) 被告会社は原告に対し、右債務につき昭和五一年一〇月二〇日を第一回とし毎月二〇日、二〇万円宛を割賦返済し、最終期限を昭和五三年八月二〇日以前とする。もっとも右最終期限は、後日被告会社の懇請により同年一一月二〇日に変更された。

(三) 原告と被告会社間の昭和五一年二月一日付台湾向輸出コミッションについての契約第二項により、被告会社が原告に対して有するコミッションの半額は前記債務の弁済に充てる。

(四) 被告会社の業績が好転し収益増加した際は適宜返済額を増加する。

3  原告は被告会社に対し、第2項記載の債権のほか、六五万三九〇〇円の売掛代金債権を有している。

4  被告新井は、昭和五一年六月一日、原告に対し、被告会社の原告に対する現在及び将来の取引上生じた債務につき被告会社と連帯して支払う旨約した。

5(一)  被告会社は原告に対し、第二項記載の債務を合計二五三万四六九四円弁済し、その後は弁済しない。

(二) よって、原告は、被告らに対し、約束手形債権及び売掛金債権合計二六九万一〇〇二円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和五三年一二月七日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による金員を支払え。

二  被告らの請求の原因に対する答弁

1  請求原因第1項ないし4項の事実は全部認める。

2(一)  同第5項(一)の事実中、被告会社が原告に対し、二五三万四六九四円弁済したことは認める。

(二) 同第5項(二)は争う。

三  被告らの抗弁

1(一)  原告主張の如く、原告と被告会社は、昭和五一年二月一日、左記内容の契約(似下本件契約という。)をした。

(1) 被告会社は台湾夾板実業服有限公司(以下台湾夾板という)に対し取引拡大に必要な営業諸活動(情報の提供、新柄開発の助言を含む)を原告と共同で行なう。

(2) 原告は台湾夾板との一取引の総額五パーセントから入金後二週間以内に小切手又は現金で被告会社に支払う。

(3) (2)の一取引の総額とは、商品の輸出梱包付船積港指定倉庫渡し価格をいう。

(4) 本契約の有効期限は一ヶ年とする。

(5) 契約期限後の取扱いについては台湾夾板との取引実績を基に改めて原告、被告会社協議をする。

(二) 原告は被告会社に対し、前記(一)(2)により五パーセントの金員(以下コミッションという)を支払うべきところ、昭和五二年三月から同五三年七月分までの取引分のコミッション料合計二二二万四四二三円を支払わない。

(三) 被告らは原告に対し、昭和五四年三月二二日の本件第二回口頭弁論期日において、右コミッション料債権をもって、原告の本訴債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

(四) なお、右契約の第四項には有効期間一ヶ年とする旨の定めがあるが、左記(1)(2)の理由により、右期間の定めは、契約に定められた条件が一ヶ年継続する意味で、一ヶ年で契約が終了する趣旨ではなく、契約は当然更新されると解すべきであり、契約の第五項は期間経過後は協議により契約内容を変更し得る趣旨を明記したものである。

従って、本件契約を終了させるためには、当事者の合意が必要であり、合意がなされていない本件においては、本件契約は当然に更新されたものである。

(1) 被告新井は、以前凸版商事株式会社に勤務し、取引を通じて台湾夾板と親しい関係にあり、原告は、被告らの口添えにより、台湾夾板と直接取引することができ、利益をあげることができた(被告らは原告以外の会社を紹介し台湾夾板と取引させることができる立場にあった)。従って、前記(一)(2)の取引額の五パーセントに相当する金員の実質は利益配分の性質を有するものであり、右金員に対する請求権は、被告会社の営業諸活動の有無に関係なく原告と台湾夾板との取引により当然発生するものであり、一年で契約が終了するものではない。このことは、被告らがなんらの開発努力を要しない既成銘柄であるウィンターチークについても、同会社に対しコミッションが支払われたことからみても、明らかである。

(2) 業界における紹介コミッションは通例五パーセント程度であり、本件も右慣例に従ったものである。

(3) 前記のように本件契約の第五項において「取引実績を基に改めて原告被告会社協議する」と定められ、取引実績によりコミッションの割合を変更する権利が保留されており期限後も当然契約が継続することを前提としている。

四  被告らの抗弁に対する答弁

1(一)  抗弁1(一)の事実は認める。

(二) 同1(二)は争う。本件契約は成立後一年経過した昭和五二年一月三一日をもって終了した。

(三) 同1(四)は争う。本件契約の有効期間は一ヶ年であることは本件契約に明記されており、右一年経過後も、被告らから更新についての協議は全くなかった。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1ないし4の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで抗弁につき判断する。

原告と被告会社が、昭和五一年二月一日、抗弁1(一)記載の内容の契約をしたことは当事者間に争いがない。被告らは、本件契約は一年の期間満了後も当然に更新され継続した旨主張するので検討する。

前記のように本件契約の四項には「本契約の有効期限は一ヶ年間とする。」同五項には「契約期限後の取扱いについては丙(台湾夾板)との取引実績を基に改めて甲(原告)乙(被告会社)協議する。」と明記されており、一方当然更新を窺わせるような契約条項が明記されていない本件契約において、被告らが主張するように当然更新されるべきものと解するには、本件契約が締結された経緯あるいは本件契約の性質等からみて当然更新されると解さなければ不合理であるというような特別の事情が存することが必要であると解される。

《証拠省略》によれば、原告は以前、建材の化粧紙を凸版商事株式会社を通じて台湾夾板に売渡していたが、被告新井の口添えもあり右台湾夾板と直接取引をするようになったこと、右取引に関連し、原告と被告会社は本件契約を締結したが、右契約締結にあたって主として問題になったのは、コミッションの割合であり、契約期間の点については、原告側から一年とする提案に対し、被告らは特に異議を述べなかったこと、原告が一年の期間を提案したのは、凸版印刷株式会社の影響力が強い台湾夾板との直接取引が円滑にいくかどうか若干の不安があり、また被告らがどの程度原告と台湾夾板との取引拡大に必要な助言、情報の提供をしてくれるかわからなかったことからであること、右取引開始当時、原告が台湾夾板に売渡していた化粧紙はウィンターチーク柄のみであり、原告が右取引を拡大するためには新規の柄を開発し台湾夾板に売り込むことが必要であり、そのためには台湾夾板の企業活動の内容、販売の状態、どのような傾向の柄を必要としているかを事前に知ることは、新柄を開発するうえで重要なことであったこと、被告新井は、本件契約成立前の昭和五〇年一二月、成立後の同五一年二月、四月の三回にわたり、原告の意匠の担当者と同行して台湾夾板に行き、新柄等の折衝をし、その結果、パリサンダー及びペカン・ミスマッチ柄の化粧紙の取引が新規に開拓されたこと、その後被告新井は、昭和五一年六月末から同年八月一日頃まで病気で入院し、また被告会社の主要な取引先であった本郷建材株式会社が、昭和五一年八月に倒産したこともあり、その後は被告らは、本件契約に基く情報提供等の営業活動をしていないこと、

被告らは、本件コミッションの支払が一年で一方的に打切られたことに不満をもっていたが、当然更新されたことを前提にした相殺等の権利主張はせず、請求原因2記載の割賦金支払債務をコミッションが打切られた後も、弁済期限の猶予を求めるなどし、昭和五二年一一月二六日まで支払っていたこと、の各事実を認めることができる。《証拠判断省略》以上の事実からみると、原告が台湾夾板と直接取引できるようなったのは、被告新井の口添えによるものであったこと、原告と台湾夾板との取引において、新規の柄が開発された場合、右柄の取引は、通常は一年で終了するものではなく、継続して続けられるものであることが認められるが、右事実のみでは前記特別の事情が存するものとはいえない。その他本件全証拠によるも被告ら主張のように本件契約が当然更新されると解すべき特別の事情を認めることができず、またそのように解することができない。

なお、《証拠省略》によれば、本件契約の成立する前から台湾夾板と取引のあったウィンターチーク柄の取引についても一年間は、被告会社に対し、コミッションが支払われた事実を認めることができるが、右事実のみをもっては、当然更新されるものとみることはできない。

そして、前記認定事実からみると、本件コミッションは、被告らが主張するように台湾夾板との直接取引を斡旋した紹介料というよりも、むしろ、被告らの情報提供等に対する対価たる要素が強く、本件契約期間を一年と定めたのは、当時原告と台湾夾板との取引が円滑にいくかどうか不安があり、且つ被告らが右取引にどの程度寄与するかどうかわからなかったことから定めたものと認められる。

してみると、本件契約は、契約締結後一年で終了し、期間終了後は、原告及び被告会社の双方が一年間の取引実績を参考にしてあらためて契約するかどうかを協議する約定であったことが認められ、期間終了後被告において原告に対し、協議を申し入れ、あらためて契約する旨の合意等が成立した旨の主張、立証のない本件においては、本件契約は一年の期間満了をもって終了したものといわざるを得ない、よって被告らの抗弁は失当である。

三  被告会社が原告に対し、二五三万四六九四円を弁済したことは当事者間に争いがない。

四  以上によれば原告の被告らに対する請求はいずれも理由があるから認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九三条を、仮執行の宣言については同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 満田忠彦)

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